前回のノート「家づくりの相談で最近多いこと 00 概論」の続きです。
ちょっと下記の Yes/No 診断チャートを試してみてください。
あなたにピッタリの「家事ラク」アイテムは?
元記事へのリンク
いかがでしたでしょうか?
質問はいずれも、それほど特殊なものではありません。むしろ多くの人がYESと答える内容だと思います。問題は、これらの「家事ラク」アイテムを一つずつ住宅の「専用空間」に置き換えていったときに起こります。
「家事ラク」というジャンルの成立
家事を楽にすること自体は昔から住宅設計の重要な課題である。ただし最近は、「家事ラク」というワードで、独立した商品価値・検索語・SNS上のジャンルになっているようだ。テレビ裏収納、パントリー、シュークローク、2way玄関、ランドリールームなどが、別々の要望ではなくセットで現れる。これらが「家づくり情報圏」の中で反復され、施主要望として定型化されている。
このノートでは、家事を楽にする要望が定型化されジャンル化された様相を「家事ラク」という言葉で表すことにする。
「家事ラク」の特徴
「家事ラク」の特徴は、一つの空間を多目的に使うのではなく、タスクごとに場所を細分化することである。つまり行為ごとに下記のような専用の場所を与えることである。下表にまとめる。
| 要望 | 家事ラク用語 | 専用空間 | 必要最低面積 | 事例 |
|---|---|---|---|---|
| 洗濯にかかる移動や手間をできるだけ減らしたい。 | 洗う・干す・しまう | ランドリールーム | 2畳 | 山下 |
| キッチン用品・食品をしまう専用スペースが欲しい。 | 買う・しまう・使う | パントリー | 1畳 | 佐原 |
| 靴・傘、上着、外用品をしまう専用スペースが欲しい。 | 脱ぐ・しまう・上がる | シュークロゼット | 1畳 | 戸塚 |
| いつもきれいにしておく、来客専用の玄関が欲しい。 | 見せる・隠す・分ける | 2way 玄関 | 2畳 | 入間 |
| リビングの雑多なものをしまう場所が欲しい。 | 隠す・しまう・すっきり | TV裏収納 | 1畳 | 北浦和 |
支持される「家事ラク」
これら一つ一つの要望には快適な家づくりを計画していくための合理性がある。ランドリールームやパントリーは人によって必要度合いは異なるだろうが、あって困るものでもない。テレビ裏収納も、条件によっては非常に有効である。
近年の注文住宅調査では「家事動線・生活動線」が間取りで重視され、ランドリールームやパントリーなどの採用希望も多い。住宅情報サイトやハウスメーカーでも「家事ラク」は一つのジャンルとして定着している。1
これら上表の要望がネット上で目に付くのは、住宅業界のマーケティングの影響が強いこともあるかもしれないが、多くの人々の共感と支持を得られていることは、確かなようである。
家事ラクを実現するには
「家事ラク」アイテムは、全部あった方が良いのかというと、十分な予算・十分な敷地面積・敷地の周辺環境が良好である、など十分に理想的な条件がそろわないと、すべてを実現するのはなかなか難しい。下記にその主要な論点を述べていく。
局所最適と全体最適
テレビ周辺だけを考えればテレビ裏収納は有効であることが多い。また洗濯だけを考えれば、ランドリールームは最適解であり、来客が多い家の玄関だけを考えれば、2way玄関は最適解であろう。しかし、それらの個々の最適解を足し合わせた結果が住宅全体の最適解になるとは限らない。「良い要望の足し算が、良い住宅になるとは限らない」という前論 00の結論を本論 01で具体的に検証する。
専用空間には必ず面積が必要
「家事ラク」は専用の機能を持つ空間であるため、そのための専用床面積を確保すれば、その分建設費が増加することは理解しやすい。しかし、同じ延床面積の中に設けるなら、その分だけ他の部屋の床面積が減る。つまり、テレビ裏収納 1.5畳をつくるということは、その1.5畳を何か別の用途に使わない、という選択をした、ということだ。
面積は限りある資源であり、現実の「家づくり」では、予算と敷地がその資源の限度を決定する要素である。
予算が限られている場合には、住宅の床面積が増えるほど建設費は増加するため、建設できる床面積には予算上の限度がある。また、敷地には建ぺい率・容積率など、建築できる規模を制限する法規があり、特に都市部の住宅では、建設費がたとえ潤沢にあったとしても、床面積には法規上の限度がある。どちらの影響が大きいにせよ、限られた床面積をどのように使うか?が重要な課題となる。
住宅の有限資源は床面積だけではない
面積の増加は建設費と直結するため、その影響を理解しやすい。実は、下表に挙げたものも住宅を計画する上での有限資源である。
| 部位 | 説明 |
|---|---|
| 外壁に面する場所 | 換気窓、給排気、排水、エアコンの設置が最短経路で可能な場所でもある。 |
| 窓を設けられる場所 | すなわち開口部のことだが、構造強度にも影響する。 |
| 採光窓 | 特に採光は、隣地境界線からの離隔距離がとれる壁面と前面道路に限られる。 |
| 家具を置ける壁面 | 通路や開口部の前には家具は基本的に設置できない。 |
| 出入口 | 必ず必要な上に、設置できる場所は動線に限られ、計画が難しい。 |
| 天井内・床下等の設備スペース、配管経路 | 水道は引き込みや最終ますから距離があれば、配管費用が増す。 |
これらを「家事ラク」専用室が消費する。例えば3畳のランドリールームを外壁沿いに配置すれば、その3畳分に接する窓や外周を別室には使えない。すなわち、「家事ラク」アイテムを追加すると、面積や開口部など限りある資源が、別の用途に使えなくなる、ということである。
建築家の解決すべき問題は、施主の要望を叶えながら、その要望によってこれら住宅の有限資源を注意深く扱い、家全体の質を高めることである。次の項で実例を紹介する。
「家事ラク」の実例
1.ランドリールーム ― 洗う・干す・しまう ―
実例:山下のマンションリノベーション ≫ 後で写真を載せる
- 浴室だった場所をランドリールームにリノベ
- 面積:2畳=1坪=3.28㎡
- 設備:ドラム式洗濯機、10本以上のランドリーパイプ、サーキュレーター、換気扇
得るもの
- 洗う・干す・しまうを集約。但し「しまう」については隣接する洗面室に下着、タオルを、シャツ・パンツ・上着等は少し離れたファミリークローゼットに収納する。
この家で成立した理由
- タワマンのため、規約によりバルコニーに洗濯物を干すことはできなかった。よってリノベ前は、個室で行っていた。リノベ後は、干すための専用スペースとして、約1坪を占有するが、このケースでは、個室を物干しで使うよりは合理的と判断した。
2.パントリー ― 買う・しまう・使う ―
実例:佐原の家Ⅱ ≫ 後で写真を載せる
- 車で買ってきたものを、勝手口を通ってそのまましまえるパントリー
- 面積:2畳=1坪=3.3㎡
得るもの
- 車で買い物 → 車庫 → 勝手口(ゴミ箱を設置) → パントリー → キッチンへつながる「買い物らくらく動線」。
この家で成立した理由
- 勝手口とパントリーをもうける分、確実にキッチンスペースは狭くなるが、車庫からキッチンまでの動線が非常に機能的になった。おそらくこれは、パントリーのあり方としてパーフェクトである。
3.シュークロゼット ― 脱ぐ・しまう・上がる ―
実例:戸塚の家 ≫ 後で写真を載せる
- 玄関土間の脇に3.2mの天井高のシュークローゼット
- 面積:2畳=1坪=3.3㎡
得るもの
- 大量のシューズ、アウトドア用品がほぼ片付く
この家で成立した理由
- 高い天井高に合わせて棚の数を増やし、同面積の収納と比べて1.3倍の高効率収納にした。なんでも収納できるので、玄関に粗雑物が無くなり、結果的に疑似的にだが 2way 玄関として使うことも可能となった。ちなみにテレビ置き場の裏に位置する。
4.2way 玄関 ― 見せる・隠す・分ける ―
実例:入間の家のリノベーション ≫ 後で写真を載せる
- 家族の玄関と客用玄関を分ける。
- 面積:3.3畳=1.7坪=5.5㎡
得るもの
- いつも気持ちよく使える客用玄関と、リビングを通して見渡せる広い庭。
この家で成立した理由
- 元々重層2世帯住宅の1階用玄関だったが石張りで解体するのは勿体無く、そのまま玄関として生かすことになった。この場所を他の用途として使える可能性はあったが、それはそれで改装費用が掛かる。このために予算を特大の玄関ドアと特注ドアハンドルに絞ることにした。外観・内観ともに大きくイメージが変わった。
5.テレビ裏収納 ― 隠す・しまう・すっきり ―
実例:北浦和の家のリノベーション ≫ 後で写真を載せる
- リビングの雑多なものをとりあえず片づける
- 面積:1畳=0.5坪=1.65㎡
得るもの
- リビングの細々したものをしまえるので、リビングがすっきりする。
- 配線・機器・雑多な物を隠せる。
この家で成立した理由
- リビングのテレビとソファーの配置を検討していたところ、施主から「テレビの後ろに雑多なものをしまえるといいかも」との要望が上がり、設計してみたところ、ソファー、テレビ、リビング収納、リビングと寝室の動線の整理が一気に解決した。
上記の 5事例に共通する性格等をまとめる
| 事例 | SNSの「家事ラク」一般解 | 共通する性格・条件・関係 ≫ 実際の設計は特殊解になる。 |
|---|---|---|
| 山下のマンション・リノベ | ランドリールーム | 「バルコニー干し禁止」という生活上・管理上の条件。 |
| 佐原の家Ⅱ | パントリー | 「車庫→勝手口→パントリー→キッチン」という敷地と生活行為の関係の整理。 |
| 戸塚の家 | シュークロゼット | 3.2mの天井高さという空間固有の条件。 |
| 入間の家のリノベ | 2way 玄関 | 既存石張り玄関というリノベーション固有の条件。 |
| 北浦和の家のリノベ | TV裏収納 | 斜め壁、テレビ、ソファ、寝室動線という複数問題の同時解決。 |
施主要望の強度、場の固有性
以上の例から、「家事ラク」はアイテム単体の追加で便利になるほどシンプルではなく、結構複雑な要望条件整理をし設計することによって、ようやく実現できるものである。施主の要望には、「絶対必要」「便利だと聞いている」「あるといいかも」……といった強度のグラデーションがある。新築であれば敷地や周辺環境、リフォームであれば既存の間取りや構造など、計画にはそれぞれ固有の条件がある。
また、私の事務所では基本設計の段階で性格の異なる複数案を同時に提案している。施主の気づきのレンジを広く取り、自分自身の要望を再発見できるようにするためである。
「家事ラク」再考
さて、ここで最初に戻り、「家事ラク」の概念を整理し再考してみたい。
アイテム先行型の「家事ラク」
「こんなランドリールームは素敵」、「SICがあると便利かも」、「TV裏収納でリビングがすっきり片付くらしい」といった、家づくり情報圏が吐き出す情報から、自身の要望として取り込むSNS型「家事ラク」パッケージのこと。
課題解決型の「家事ラク」
下記の例のように自身の経験から要望を設計に組み込んでいくこと。
- 調味料や乾物をストックしておく「パントリー」が欲しい。
- 来客が多いので 2way 玄関にしたい。土間の石張りはもったいないので再利用したい。
課題発見型の「家事ラク」
もう少し抽象化を行い、気づきのレンジを広く取る。すなわち上記の例でいうならば、
- 料理が好きなので、食品の調達・保管・調理・配膳・片づけ・廃棄を楽にしたい。
- 来客に気持ちよく、そして少し非日常性を感じてもらうために、特大の扉と特注のハンドルの玄関扉を建付けたい。それでいて改装前のイメージを残したい。
結局「家事ラク」とは?
「家事ラク」のアイテムそのものに問題があるわけではなかった。私自身、名前こそ意識していなかったが、それらをいくつも設計してきた。問題は、それが設計の出発点になってしまうことなのだろう。
ランドリールームやパントリーという名前を一度外し、「何に困っているのか」「どのように暮らしたいのか」まで戻って考えると、課題はそのアイテムの範囲を越えていく。そうして設計した結果が、たまたまランドリールームになることも、パントリーになることもある。
「家事ラク」を選ぶのではなく、個々の「家事ラク」の課題を解決するだけでもなく、その家に潜む課題そのものを探し出し、再設定する。その結果として「家事ラク」になることもある。
そう考えると、冒頭の「あなたにピッタリの家事ラクアイテムは?」という問いそのものが、少し違って見えてくる。家づくりで最初に探すべきなのは、自分にピッタリの「アイテム」ではないのかもしれない。
よい設計とは、要望を減らすことでも足すことでもなく、要望そのものを再解釈することなのではないか。
次回シリーズ仮題
- 家づくりの相談で最近多いこと 02 設備:家づくりの勉強し過ぎ?
- 家づくりの相談で最近多いこと 03 計画:これは物流倉庫のダイアグラムだ!
脚注
-
SUUMOは「家事がラクな家」を住宅検索の正式な分類として持っており、リクルートの2025年調査では、新築時のこだわり上位10項目中6項目が「家事のしやすさ」に関係していたとしています。小田急ハウジングのコラムには「家事ラク」というタグが設定されています。玄関→パントリー→キッチン、玄関→SIC→洗面などを「近年注目されているプラン」と説明しています。PanasonicHomesのコラムに家事ラク動線の決定版!パントリーとランドリールームのおすすめ間取りアイデア7選 というのもありました。 ↩