三層構造の世界

前回のノート田山花袋『蒲団』を読んでみた 04 で終わりにしようと思っていたが、振り返ってみると、『蒲団』の世界観は次の三層構造として捉えるとらえることはできないだろうか?という気づきがあった。それらを列記する。

  • 現実世界 ≫ 花袋や美知代など、登場人物の実在モデルが存在する世界
  • 蒲団世界 ≫ 時雄、芳子、田中、時雄の妻、芳子の父などが生きる自然主義文学の世界
  • 文学世界 ≫ 『蒲団』の作中に登場する文学作品の世界

この世界観を Obsidian っぽく Canvas を使って整理してみた。

『蒲団』の世界観

蒲団世界
現実世界
文学世界

その前夜/ツルゲーネフ 芳子、エレネに自分自身を重ねる

ファースト/ツルゲーネフ 芳子の感情が目覚める。

人形の家/イプセン、ノラの話。自ら考えて自ら行う。

芳子、時雄に入門。牛込の時雄宅へ仮寓

芳子、三番町の姉の家へ転居。麹町の某女塾へ通学

プニンとバブリン/ツルゲーネフ 時雄、芳子と結ばれる「別の人生」を空想する

故郷(マグダ)/ズーダーマン 芳子の自由・自立心が芽生える

時雄、悶える

芳子、田中とはキレイな関係であることを誓う

時雄 叫ぶ “Superfluous man!”

時雄、ときめく

時雄、妻との生活に孤独を感じている。

芳子、時雄に書簡を送り入門を懇願

1895年、信子、国木田独歩と結婚

美知代、三番町の姉の家へ転居。津田英学塾予科へ通学。麹町にあった。

美知代、永代と膳所遊覧

田中、最初の上京

一年半の歳月が流れる。 芳子、時雄に「新しい女」の教育を受ける。

時雄、師弟の関係を超えることを夢想する

芳子、同志社の学生・田中と嵯峨に遊ぶ

1903年、美知代、花袋に書簡を送り入門を懇願

芳子、「神戸の女学院」に通う。ハイカラで自由な女学生生活

美知代、神戸女学院に在籍

佐々城信子

独歩と花袋は友人関係

時雄、芳子の蒲団に包まり夜着の匂いを嗅いで泣く

1905年7月、美知代、関西学院で開催されたYMCA夏期学校で永代と親しくなる

1904年、美知代、入門。牛込の花袋宅へ

1908年4月 美知代、『侮辱』を発表。 天賞を受賞

1907年9月 花袋、『蒲団』を発表。 美知代、スキャンダルに巻き込まれる。

時雄、芳子の帰郷を見送る。

信子、有島武郎「或る女」の主人公 葉子のモデルとなる。 又、木部という登場人物は、独歩がモデルである。

寂しき人々/ハウプトマン 芳子の登場で孤独が破られる。

魔風恋風/小杉天外 金色夜叉/尾崎紅葉 禁読対象となった作品

5日後、芳子から候文の手紙が届く。

田中、芳子の帰郷をそっと見送りに来る。 芳子、胸を轟かせる。 時雄、田中に気が付かない

死よりも強し/モーパッサン 若さが徐々に消えていく一方で、欲望や情熱は老いていかない

時雄、あきらめきれない

父/モーパッサン 時雄、作中の若い女性が泣く場面を思い出す

1909年、美知代、 永代と結婚

1919年、有島武郎、「或る女」を発表

『蒲団』の発表以前に美知代は永代との恋愛について作品化。花袋はその作品に目を通している。

1906年10月、花袋、美知代の故郷・上下町に2日滞在。

時雄、自分の年齢を自覚する

芳子、帰郷することになる。

芳子と田中の親密な関係が明らかになる

時雄、激しく煩悶

1906年1月、美知代、父に連れられ、上下町へ帰郷。

芳子の父が上京する。

美知代、牛込の花袋宅へ戻される。

永代、上京

芳子、牛込矢来町の時雄宅へ戻る

田中、2回目の上京。東京に居つく

面識あり現実世界へ続く
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新たな構造の発見

三層構造の世界を Canvas 上に並べながら、出来事等をカードにして時系列に整理してみたところ、下記のことに気が付いた。

  • 三層構造の世界は互いに重なり合う部分がある。
  • 花袋と美知代の現実世界は、蒲団世界に滲み込んできている。
  • 文学世界は、時雄の内面を通して蒲団世界へ引き込まれている。

この三層構造となっている『蒲団』の世界観は、すでに 01~04 で述べたことも含めてまとめると、下記のことが分かる。

  • 時雄の欲望や自己欺瞞をばらす
  • 花袋自身の私生活と物語のモデルをばらす
  • その物語を組み立てた文学的な元ネタまでばらす

花袋は身の回りの出来事を通して、『蒲団』の主人公 時雄の内面をあるがままに隠さず描き、自然主義文学を著した。さらに、『蒲団』という物語を組み立てる際に参照した文学作品を主人公に語らせている。

これを私は、仮に「超自然主義」と呼んでみたい。